お前の名を呼ぶ者に
応じてはならない
どれほど懐かしい声が
自分の名を語っても
お前の名を呼んでも
決して窓を 扉を開けてはいけない
あれほど、忠告されていたのに
暗黒の三日間
窓の外から、愛しい者の名を語る悪霊が
みな、誘惑に負けてしまった
暗黒の三日間が過ぎて
地上から人間の気配は消え失せた
しかし、皮肉なことに
ここからまた人間の数を増やすこともできない
街の再生もできない
非力な彼女たちが残った
年老いた、独り身の女達 男達
彼らの家には誰もこなかったから
親も友達も 愛すべき伴侶も誰も
それまでの人生に現れなかったから
悪霊達は考えたけれど
どうやって窓を開けさせようか
どれほど孤独な人間でも
その母の記憶はあろうと
母のいたしました者達の窓辺には
母の姿で現れ名を呼んだ
しかし、彼らは言った
いいえ、私は母を捨てました
母は一人、施設で息を引き取りました
ですから、母は私を恨んでこそすれ
今さら、私の名を呼ぶことはありません
悪霊達は
彼らの人生をつぶさに観察した
少しでも、彼らが心を開き
その愛を信じる相手がいなかったか
彼らに愛を与える者がいなかったかと
それから、悪霊達は諦めた
他の窓辺へと立ち去った
そうして
彼らだけが生き残った
彼らは嵐が収まり光がまた地上を照らす頃
扉を開けて外へ出て
人々がいなくなった世界を見た
彼らの目に喜びと勝利の色が浮かんだ
悪霊に勝ったからではない
自分を受け入れず
幸せを謳歌していた他の人々がいなくなったことに
思わず 笑みがこぼれた
雲の影から彼らを見ていた悪霊達は
より強大な悪の力を見せつけられたようで
恐ろしくなって退散した
あれは、人間なのか?本当に?
いや、あれこそが人間だ
俺たちには太刀打ちできない
いや、あの恐ろしい者達の成れの果てが俺たちなのだろう
だからこそ、生まれたての悪意、純粋な恨み憎しみの念の凶悪さには畏れ入る
悪霊達はそして二度とは戻って来なかった